「雪降る駅で」 落涙について
有難いことに「雪降る駅で」を読んで下さった方々から、何度も泣きましたとお
話し頂きます。
しかし、この物語を書くとき読者の方々を泣かせてやろうなどと、私は一度も思
ったことはありませんでした。ただ、初めに思い描いたラストシーンに向かって必
死に物語を書き進めている内に、泣いてもらえるような場面が出来上がったと言え
ます。
でも、お恥ずかしいことですが、幾つかの場面では書きながら自分でも落涙して
いたことも事実です。そして、この物語を一冊の本にして頂く時に、訂正・加筆し
ながらも再び落涙したことも白状しなければならないでしょう。それは、書き手の
私から物語が独り立ちして行く一瞬ではなかったかと思います。
物語が完結し一冊の本になった時、「雪降る駅で」は私の手元を離れ、読んでい
ただく方々の物になったのだと思います。そして私も「雪降る駅で」の一読者にな
ったのだと思います。