2019年01月22日

前チャック

 先達ての朝のことです。大混雑の通勤電車でぎゅうぎゅうの人に押されながら立っていると、途中駅で前の座席に座っていた人が降り、珍しくシートに座ることが出来ました。皆さん着膨れしているので座るスペースが窮屈で、少し浅く腰掛けました。そして見るともなくふと前を見ると、丁度目の前に立つ、丈の短なコートを着ている男性の前チャック(ファスナー)が開いているのが見えたのです。彼はそんなことに気も付かず、スマホを見ています。このままで電車を降りて移動すると、チャックが開いているのに気が付かないまま、多くの人とすれ違うことになってしまいます。開いていることを教えたいのですが、声に出して伝えると回りの人達にも分かってしまいます。私も今までに何度も前チャックを開けたままで闊歩し、随分と後になってから気が付いて、一人顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしたことがあります。ここは男同士の情け。なんとかこっそりと教えたいと思いました。
 私は、何時も鞄の中にメモ用紙とボールペンを入れています。座っているので、それらを取り出してメモすることは容易です。
「前チャックが開いています」
 電車の揺れの合間に、そう走り書きしたメモを、彼が持っているスマホの横に差し出しました。彼はすぐその紙切れのメモに気が付き受け取りました。私はすぐさま目を閉じました。彼が前チャックを閉める気配が伝わってきました。
 その男性は、三つほど駅を過ぎたあたりで電車を降りて行きました。私は電車が動き出してからそっと目を開けて、鞄から本を取り出して読み始めました。
posted by nikki at 10:01| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする